「闇営業」問題をフリーランサーの『コト』として考えてみる

「仕事」という観点を少し変えたスキマ記事です。ちょっと話題の旬は過ぎている気もしますが、私自身の考えを公表するタイミングをあまりあと伸ばしにしたくない*1ので...。

芸能界、というかお笑い芸人さんたちの世界での最近の「不祥事」として、『闇営業』なる行為によって芸能活動の停止を余儀なくされた方たちが話題になっています。内容についてはこの記事を読まれている方々もご存知だと思いますので触れませんが、この闇営業の件について触れているインタビューの中では、中川家へのものが秀逸でした。

www.sponichi.co.jp

記事タイトル通り、「そういう所に行かなくていいぐらい売れたいと思ってた」というのはフリーランス、特に専業の自分にとっては腑に落ちると言うか納得できると言うか。

「反社会的勢力」なる日本語は最近生まれたものではないかと思います(Wikipediaによれば2007年の政府の指針のタイトルとして使われたのが最初なのだろう)が、今は言葉として「バズって」いて拡大解釈をされがちなので、フリーランスの仕事、特にクラウドソーシング界隈でありがちな詐欺/特殊詐欺系案件を提供している「詐欺集団」をメインターゲットとして話を進めてみたいと思います*2

「反社会的勢力」の仕事を受注することの問題点

「『反社』だからダメに決まってんじゃん当たり前」という思考停止状態の方向けに、ではなぜダメなのか、という理由を、芸人さんたちの闇営業問題を例にしてきちんと考えて見たいと思います。

「反社会的勢力」とのつながりを持つことになる

「詐欺グループだとは知らなかった」とは件の芸人さんたちの弁明ですが、これを真に受けて考えたとしても*3、そのグループの人たちとは一度でもメールや電話、直接合わなくても「コネクション」はできるわけです。お互いに、好むと好まざるとにかかわらず連絡を取る手段も得られるし、「仕事」という面で見ればお互いに「取引先」として取り扱うことになるわけです。

「反社会的勢力」との金品の授受が発生する

そもそも仕事の受発注ですから、相手からはお金が支払われるし*4、相手に対して何らかの「納品物」を納品することになります。金品の授受です。

「反社会的活動」のための労務を提供してしまう

今回の芸人さんの闇営業問題は直接的には労務提供ではないのですが、一般的にフリーランスが受注する案件として存在するのは「反社会的活動」の片棒担ぎになってしまいます。 以前見た案件では、「サーバーを立てる→メールの送信チェックを行う→テスト完了を報告→数時間後にサーバーのインスタンス(および契約)の解除」というもの。おそらく先方でメールの大量送信をし、証拠を残さないように(もちろん契約者も自分自身ではないので言い逃れはできますが)サクッとサーバーを削除させてしまうという手口なのだろう、と思われます。 受注をした当人にとっては、ただサーバーを立てて落とすだけなので何一つ悪いことはしていない、と考えるのですが、上記のような状況が発生したとすれば、これは反社会的勢力に対しての労務提供となってしまいます。

「反社会的勢力」の仕事受注のメリットを考えてみる

でも、そういう仕事が「存在する*5」し、それを「それと知らずに」受注をしようとアクションを起こすケースはままあるわけです。私は受注することは無いと思うのですが、もし受注したらどんな「メリット」があるのかを妄想してみたいと思います。

金払いは良い(多分)

議論の余地はあると思いますが*6、私が見ている限りでは、案件の単価も多少高め*7に設定されていて、一瞬普通の案件かな、と感じさせ、終わればお金も払ってくれるという、見た目上は有料クライアントのように見えるわけです。

仕事内容は簡潔かつ短納期

金払いの良さもそうですが、「誰でもできる」感のある仕事が多いです。そして、初心者でもできる仕事、と言うと実はそうでもなく、ある程度のスキルを要する仕事なので、何もわからない初心者ではなく*8、中級・上級レベルの人が、「ちょっと手が空いたからお手伝いくらいにやってみようか」と思えるような仕事、といえば聞こえがいいでしょうか。まさに闇営業の芸人さんが行ったパーティーのような感じでしょう。素人さんの宴会の余興としてプロの芸人が呼ばれる、というわかりやすい構図です。

他にもいろいろありそう

相手は「騙すプロ」ですので、目的のためにはどのような手段を講じてでもその目的を達成しなければなりません。私も知らないような詐欺案件はいくらでもあるんではないかと思うのですが、普段からそういう「研究」をしているわけでもないのでわからないというのが本音です。もちろん新しいパターンも日々生まれてくるでしょうし。

どうすればいいのかを中川家に学ぶ

もう一度最初の記事の感想に戻ります。そうそう。こうあるべきだ、と。

「闇営業」を否定する意図

彼らは、以前から「闇営業」からは距離を置いていたようです。剛さん(お兄ちゃん: 小さい方)曰く、

ウチらは若い頃から頑なに、そういうのには行かなかったから

ということなので、例えば先輩たちが誘って来ても断り続けていたのでしょう。難しかったでしょうね。上下関係の厳しい芸人の世界で先輩の顔を立てることをしなかったということでもあるのですから。でもそれには理由があるはずです。 記事(そして囲み取材)では語られなかった部分を推測してみると、芸事は芸事として、それとは別にビジネスはビジネスとして、という切り分けができていたのではないかと思えます。自分の所属している場所以外から直接仕事を受ける(=闇営業)ことが、ビジネス的に問題がある、という感覚があったのかもしれません*9

「そんなことをしなくてもいいくらい売れたい」

ビジネスという点ではなく、芸事として考える場合、そもそも普通の仕事で引く手あまたであれば、誰ともわからない人たちの所に「営業」に行くという必然性がなくなる、という理屈はすごくわかりやすいと思います。断るにしても、「本業が忙しいから」という至極まっとうな理由で断れるわけで、だからこそ本業をどうやって忙しくすればいいか(どうやって芸を磨くか)、を追求していけたのではないか、とも言えます*10

実際のフリーランスとしての心がけ

繰り返しになってしまうのですが、ではフリーランスとしてはどう「反社会的勢力」との付き合いをなくしていくか、という点について考察を進めたいと思います。

相手が何者なのかは事前に知るべき

私はクラウドソーシングだけではなく直接お客様とお会いして仕事を獲得することも多いですので当然といえば当然なのですが、お客様がどのような素性の方なのか、というのをある程度理解した上でお取引をさせていただいています。 クラウドソーシングの問題点としてよく挙げられるのは、「匿名での活動が可能であること」なのですが、私は匿名、というか素性がわからない依頼者については応募しないようにしています*11。相手が何者であるかがわかっていれば、取引自体も「正しい」取引のみが行われることが容易に想像できますね。

「仕事」に責任をもつべき

その仕事、または労務が、お客様に納品されたあとにどのように使われるのか、ということはわかった上で仕事を受けるべきなのではないか、ということを常々感じています。 特に私はシステム開発の仕事がメインですが、これこれこういうことをしてほしい、みたいな仕様設計がきちんと決まっている仕事より、自分が参画することで自分の色を少しでも加えたいという意図もあるのですが、ある程度柔軟な仕様提案ができるような仕事を基本的に選ぶようにしています。自分の仕事に対しての責任はより重くなるのですが(提案が採用されればその部分は私の裁量で作ることができるので)、それよりも「これから作ろうとしているシステムは一体なんのために使われ、どのように消費者に見えるようになるのだろう」という純粋な興味を持っています(完成図がわかるほうが作る側としても楽ですから)。 他の業種の方にしても同様だと思います。受けようとしている仕事が果たして変なことに使われない(または使われようとしない)かどうか、という視点は、その仕事の成果物の責任は自分にあるという考えがあれば当然持っていい視点なのではないかと思います*12

お金のための仕事と割り切るなかれ

こと「クラウドソーサー*13」が「その道」に踏み込む、つまりクラウドソーシングに登録する理由はほとんどが「小遣い稼ぎ」なのだと私は思っています。特にメディアなどで喧伝されている「簡単に小遣い稼ぎするには!」的な情報に踊らされて登録した人たちはそうなのではないかと考えています。 お金が稼げればいい、ということで仕事をしているのであれば私の考えとは全く異なるのでしょうから、どのような仕事でも(つまり今回の文脈で言うなら「反社会的勢力」が提示する仕事・案件についても)遠慮なく受注すればよかろう、なのですが、そうでなければ、副業でも本業でも、自分の「仕事」を極めることでお金があとから付いてくる、と考えるのであれば、真っ当な仕事を見極めて仕事を受注するべきだろう、と私は考えています。もちろん、目の前にある美味しそうな仕事(それが詐欺案件だとは言いませんが...)に目がくらむこともあるでしょうが、それは自分のために今後なるのだろうか、間違ったことをしようとしているのではないのか、という自問自答をしてから仕事の受注をすることは悪いことではないと思います。

フリーランスに「闇営業」は存在しないですが...

今回の出来事で想起される言葉をすべてごちゃまぜにしてしまうつもりは全くありませんが、思考停止状態になるとそうなってしまいがちです。例えば、反社会的勢力との付き合いは仕事上であろうと個人的であろうとすべきではないのか、とか、なぜクラウドソーシングで「反社会的勢力」の提示する案件がなぜ掲載されるのか(排除されないのか)とか、自分が善人であり、社会が悪を許しているから自分(=善人)が騙されるのだ、とでもいう言い方はまさに思考停止状態でしょう。1箇所だけ正しいところがあるとすれば、「自分はなにもしていない(対策をしていない)」という点だけです。 対策はまず自分がすればいいと考えましょう。お金を稼ぐ前に、まず自分が「正しい仕事」を受注すること。誤った案件かもしれないと思ったら手を出さないこと。

ウチらは若い頃から頑なに、そういうのには行かなかったから

中川家のお兄ちゃんの言葉はそういう意味に捉えることができるし、初心者なら特に、そして長年やっているフリーランサーにとっては初心に帰るつもりで、この言葉の意味を考えるべきなんではないかと思います*14

最後に

全く関係ないですけどブログのデザイン少しずつ変えています。基本はてなブログの有りモノだけで作ってますのでまぁこんなもん、というところですが(そんなにデザインにこだわりを持っているわけではないです)。

*1:というか「賞味期限切れ」のボツネタになるのが好ましくないんですよね。

*2:実際に今回の件で、暴力団との付き合いではなく、あくまでも「詐欺グループ」の会合に呼ばれた、と言う弁明が多数見られます。詐欺グループのバックに必ず暴力団がいるとは限らない、とは思いますが、逆にバックに暴力団がいたとしても「直接暴力団との付き合いをしていない」という言い訳にも聞こえます。もっとも、最近では反社会的勢力と言えばの暴力団自身が特殊詐欺などの「反社会的行為」によるシノギを禁止するという方向に向かっているとの報道も目にしたことがありますので、この弁明もあながち間違ってはいないのかもしれませんが...。

*3:「知らないはずはない」と我々一般人は思うのですが、それは「反社会的勢力」の方を知らないからなのかもしれませんね。意外と一般の人たちに紛れて住んでいたりするんですよ。あなたの隣に住んでいる人、向こう三軒両隣の人たちはどんなお仕事をされているのか、ご存知ですか?

*4:支払いすら行われない、フリーランスへの詐欺行為は今回考えません。

*5:実際に依頼として存在しています。

*6:詐欺行為を働く人たちが労務/納品物だけを持ち逃げしないはずはない、という理屈は間違ってはいませんが、詐欺を生業としている人たちにとって、あちこちでリスクを犯してまで詐欺を働くのか、という疑問はあります。本業の「詐欺(例えばフィッシングメールを送ったりオレオレ電話を掛けたり)」以外で足がつくようなことを果たして行うものなのでしょうか。

*7:この「多少」というところが「いいところついてるな」と個人的には思います。相場と同じなら案件の中身を先に見るし、相場より高過ぎれば相手は怪しむし依頼する側も出費が大きいし。「急ぎばたらき」の相場と見てもまぁコレくらいかな、という微妙な相場観です。騙す方も知識を持っているということですよね。

*8:「初心者」にはもっと別の「お仕事」が待っています。搾取される仕事です。

*9:もしかするとそういった経験が過去に合ったのかもしれないですし、若い頃の社会人経験(礼二さんは大手電子機器メーカーの営業さんだったとか)がその感覚に結びついているかもしれません。

*10:ちなみに私は中川家は大好きです。面白いですよね。

*11:その基準として「本人確認ができているかどうか」ということを挙げる方は多いですが、私は実は「本人確認」は一切確認をしていません。もし法人の場合、法人内で個人の裁量で依頼を掛けるケースでは、法人としての本人確認を取ることはおそらくできないでしょうし、かと言って個人の本人確認をするのは筋違いだったりする、というケースは考えられるわけです。

*12:一時期、ある有名人の名誉を傷つけるブログ記事の発注依頼が問題になっていましたが、発注を依頼している人が複数の有名人の名誉を毀損する記事作成の依頼をしていたとしたら、その人が「人間嫌い」とか「有名人嫌い」と考えるのか、それとも単にブログを扇情的に作ることでアクセス数を伸ばしたいと考えているのか、のどちらかだろうと仮説が立てられます。でも、もし人間嫌いなら他人(彼の嫌いな人間です)にそんなことを頼んでまで名誉毀損をするでしょうか。

*13:という「職種」が認知されてきたようですが、クラウドソーシングでの受注オンリーで稼げる時代がきたという話は寡聞ですけどねぇ。

*14:稲盛和夫の言葉、「動機善なりや、私心なかりしか」も思い浮かびます。稲盛氏は自問自答のキーワードとしてこの言葉を使っていたのですが、仕事に対する責任や社会的責任に拡大解釈をすれば、受ける仕事に対しても「動機善なりや」という問いかけはしてもいいだろうと思います。