「農家民宿」とワーケーション

先週から今週の初めにかけて福島出張をしていた、という話を行く前にちらっと書いてみたわけですが。

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旅の宿泊先は滞在期間中のほとんどはホテルではなく『農家民宿』と呼ばれる宿泊施設の宿泊で、今一つ厳密な定義がされていない感じはありますが*1、基本的には農家をやっているお宅での民泊、と捉えていただければよいのですが、そんなところに宿泊をしていました*2。その宿泊していた期間、そしてそれ以外の期間に宿泊していたごく普通のビジネスホテルでの宿泊経験から、いきなり『ワーケーション』という話まで飛躍をさせてみたいと思います。

ワーケーションの定義

働き方改革の文脈で語られることが多いですが、ワーケーションのそもそもの意味は、Work(働く)Vacation(バケーション/休暇)を組み合わせた造語で、「働きながら休暇を取る/休暇をしながら(一部の)仕事もする」という海外(アメリカ)初の考え方、ワークスタイルです。

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働き方改革」が関係する理由は、ワーケーションにおいては休暇先で仕事をするためにテレワーク/リモートワークという(これまた)新しい概念があって、テレワーク/リモートワークをするための環境を整えるために、施設としての「ワーケーション拠点」が必要である、というところでつながっているように思えます。

だから、働き方改革の文脈に沿って定義をし直すのであれば、『テレワークやリモートワークの仕組みを使って、休暇先であっても滞在先から仕事に参加できるという新しい働き方』とでも言えばいいのでしょうか。

日本における「休暇」とか「バケーション」とか

と言うことは、バケーションと称して*3、2週間会社を休みます+会議はリモート出席、資料は作って適宜出す、ということを今どきの会社さんはやっているのでしょうか。私(プログラマ/エンジニア)なら差し詰め、「2週間会社を休みます+進捗会議はリモート参加+コードレビューは3日おき+随時顧客折衝のメールや電話」とでもなるのでしょう。たぶん上司はNGを出すでしょう。理由は「2週間も休まれたら困るから」。ほかにも、コードのリポジトリは社内にあって外部からのアクセスは厳禁、進捗会議に限らず会議は必ず顔を合わせて行う、という、内規ですらない過去からのスタイルをそのまま踏襲する必要があるから、という理由もあるでしょう。

まぁ、「働き方改革」が進めばそういうこともなくなるのかな、とは思いますし、そういう過去の遺産を払拭してこその「改革」ですし、顧客折衝についてはずいぶん前から「働き方改革」は進んでいますからね*4

現在の「ワーケーション」の取り組み

働き方改革」と違って、「ワーケーション」は官主導ではなく、民間主導で行われている動きのようにも見えるのですが、自治体も(働き方改革の動きに絡めることで)巻き込んでいるような印象を受けます。

かなりぶっちゃけた言い方をすれば、休眠施設(官民問わず)を再利用するにあたり、テレワーク/リモートワーク拠点として作り替え、更に自治体側の「観光(インバウンド)」「産業の6次化(サービス/物販)」といった思惑に「ワーケーション施設」という言葉が響いて、大きなハコモノ施設をワーケーション施設として再整備している、と言うのが現状なのではないのかな、と思っています。

「仕事」と「休暇」は果たして共存しあえるのか

そもそも「休暇」が仕事を休むことで成立するとすれば、「ワーケーション」という概念自体が成立しないわけです。休暇を取っているにもかかわらず休暇先では仕事ができないのであれば、それはただの休暇です。でも、休暇先でも仕事ができるのであれば、というのがワーケーションのキモであり、そのために必要なものは設備ではなく、環境なのではないのかな、と思うんですがどうでしょうね。

それはそれとして、少なくとも日本では仕事と休暇は相反する概念として認知されていると私は思っていますし、「働き方改革」という文脈においても仕事と休暇は区別されているように見えます。また、休んでいても給与が支払われるのはあくまでも(日本においては)有給休暇の取得時であり、そうでない休暇は無給休暇ですから、普通休みの日は(有給無給の休暇に限らず)仕事はしないという考え方になるはずです。ちなみにワーケーションという言葉が生まれたアメリカは先進国で唯一、有給休暇の権利が「法律で保障されていない」国で、休みの日に給与を支払うかどうかは雇用側の判断に任されているので、休暇中に一定の労務を行ったと認められれば給与が支払われるという仕組みが成立するのでしょう。

あまりメリットがなさそうな「ワーケーション」だけど

会社員として生活している限り、休みは休みだし、仕事は仕事で、という「ワークライフバランス*5」を意識しなくてはいけないので、ワーケーションの概念はあまりなじまないとは思いますが、私のようなフリーランスであれば「ワーケーション」の概念は馴染みやすい、ということを今回の農家民宿への宿泊で感じた、というのが本題なわけです。

農家民宿の実態

定義がはっきりしているわけでもないのですが、多くは現役の農家さんが自宅の一部を開放して民宿をやっている、というところですが、実際には大きな農家の家で、ふすまで仕切られた奥の部屋(客間)に通されて「ここが寝室」、居間やダイニングキッチンで家人(民宿的に言えばホスト)と食事を共にし*6、トイレや風呂は家に備え付けの設備をそのまま使ってよい、という、『田舎の親戚のおじちゃんおばちゃんの家に泊まりに来た』的な雰囲気です。

居間(テレビが置いてある家族だんらんが楽しめる大部屋)と寝室の利用については比較的自由に使わせていただける確率が高く、冬の時期であればこたつにあたりながら(そして農家なので掘りごたつである可能性もかなり高め)、ノートPCでも持ち込んで仕事をするということもさせてもらえることが多いです*7。居心地も大変いいですし、そうなるような雰囲気づくりを一生懸命されているのだなぁ、と、心遣いを感じます。たまたま泊まった農家民宿さんたちが商売っ気のあまりない方たちで、来たお客様に対しては精一杯おもてなしをしよう*8、といろいろと良くしていただけるのです。

農家民宿では農家体験もできる

今回の訪問時は一番の農閑期であったこともあり、特にそういったアクティビティがあったわけではないのですが*9、田んぼがあれば田植えや稲刈り、畑の植物や野山の山菜やキノコなどの収穫体験、場所によっては工芸品などの手作り体験なんかもできたりするようです*10

休暇として訪れた先で農業体験などをして、必要に応じて成果を出す(メールやら資料作成やら、果てはプログラミングまで)、ということができ、その成果に対して報酬が出る仕組みがあるのであれば農家民宿で農業体験をしながら仕事もする、という、本来の意味でのワーケーションが成立するのではないでしょうか。

そのために必要なものは施設ではなく環境

先の項で述べたことの繰り返しなのですが、施設ありきではなく、休暇を取るということを前提に考えるのが「ワーケーション」であって、そのための環境整備としての施設であれば、「まぁ問題がない」レベルなのですが、そもそも観光の拠点としてワーケーション施設はなりえないわけですし、観光をメインに据えるのであれば観光を行いたい時間帯以外には特にワーケーション施設はオープンしていなければ意味がないわけです。例えば昼間外でアクティビティを行うような観光エリアであるとするならば、その観光アクティビティが終わってから仕事をするわけで、夕方以降にワーケーション施設がクローズしていたら意味はないんですよね。

逆に、宿に泊まっても家にいるときと同じような雰囲気で仕事ができる、という環境に近い農家民宿は「環境さえ整っていれば」ワーケーションの拠点となるにふさわしい施設なんじゃないのかな、と考えるわけです。

農家民宿をワーケーションの拠点と考えた時のバケーションモデル

...と言うか、ワーケーションの拠点として何か作るのであればバケーションのモデルをきちんと作るべきなんじゃないのかな、と思うんですけど。ワーケーション=仕事+観光(この時点で少し軸がずれてる)=観光地に仕事ができる環境=ハコモノコワーキングスペース的なものをぶち込んだモノ、というストーリーは安直と言うよりは少しずれているんじゃないですか、って話です。

閑話休題

私が考える観光も視野に入れた農家民宿を軸にしたワーケーションモデルはこんな感じ。

  • 夜チェックイン。部屋に案内される。布団と文机が置かれた8畳くらいの客間。文机の上にはセキュアなWi-FiのIDとパスワードが書いたメモ。
  • とりあえず「メシ」「風呂」。長旅の疲れを取る。地元の酒だと家人が紹介してくれた日本酒を少しいただく。
  • 下膳の手伝いをして、ついでにコップ1杯の水をもらってそのままリビングを使わせてもらう(家人はホストルームに下がる)。ノートPCを開いて少し仕事。
  • 小一時間も仕事をしたら眠くなってきた。空のコップを持って部屋に戻るとそこには水差しが。文机にノートPCとコップを置き、水差しから1杯水をついで飲み干し、おもむろに布団に入る。
  • 朝、外のニワトリの鳴き声で目覚める。今日は朝から昼前まで野菜の収穫体験。緑の中で野菜をもぎ取る。美味しそうなのでつまみ食いしようとしたら見て見ぬふりをされた。
  • 昼前には日も高くなり少し暑い。熱中症予防のため農家の方たちも昼間は家の中に引っ込むらしい。シャワーを借りて汗を流し、昼食までの間に少しコードレビュー。
  • 昼食後は午後3時くらいまで農家体験が再開されないので、午後イチにアサインしていたリモート会議に参加。
  • 午後から夕方にかけて畑の草むしり。ひと汗かく。
  • いい汗をかいて夜になる。「メシ」「風呂」からの仕事レポート作成。今日は居間ではなく寝室の文机で集中して作りたいのでお酒は遠慮しておいた。
  • ...

いかにもフリーランスが旅をして、その先で仕事を少しやっている、的なモデルですが、すごく魅力的に見えませんか?先だっての『旅』ではこれに近い生活をしていました*11。こういう生活も悪くないです。ちょっと考えてみてはいかがでしょうか。

*1:厚労省のこのページあたりが内容としては近い感じですかね。

*2:宿泊先についてはそのお宿の方たちから話を聞いた限りでは「客を取ることは主目的ではないんだよね」という話を聞いているので紹介をすることは控えます。

*3:と言うよりは本来のバケーションなんだと思うんですが...。

*4:会社のメールを自分のPCやスマホ/携帯電話で見られるようにし、24時間いつでも対応できるように、と言うのは昔からやってましたよね。特にブラック系企業では。

*5:これも働き方改革におけるキーワードの一つですよね。概念としては結構古いし、私自身はこの考え方には賛同ができないのですが、仕事のON/OFFを切り替えるという点では会社員/勤め人にとっては必要なことなのかもしれませんね。

*6:もちろん素泊まりプランを選んでいれば食事は出ませんのでどこかに食べに行く必要がありますが、よほどのことがない限り食事をお願いするのが良いのではないでしょうか。量が多くてびっくりするのが玉にきず、と言ったところでしょうか。

*7:ただ、実際には「仕事でこっちに来ているのだから家にいるときぐらい休んだらどう?」と声をかけられることが多い気がします。むしろ家には仕事を持ち込まず、帰ってきたら酒でも飲んでさっさと寝て、朝早起きして仕事に行く、という農家的な生活リズムを期待されているようにも思います。

*8:だからそんなことを毎日することも農家の仕事をしながらやるのは大変で、たまに客を取るくらいがいいんだよね、と言う考えに落ち着くのですが。

*9:あったとしても私自身は生まれたところの田舎で近くの農家さんを何度となく手伝ったことがありますし、仕事も限られた期間での成果を求められる内容であったこともあり、参加はしないだろうと思いますが...。

*10:私の田舎の農家さんでは年末になるとその年に取れたコメの稲わらを使ってしめ縄などの正月飾りを作っていました。そこは民宿やってないですけどね。

*11:Wi-Fiが自分持ちであったことと農家体験がなく、代わりに現地法人に常駐していたことが大きく違うところでしょうか。