小ネタ:デジタルノマド(ノマドワーカー)の実態を見た所感

なんとなくおススメに出ていたこんな動画を見ていたわけですが。

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「Digital Nomads」という言葉は日本ではだいたい「ノマドワーカー」と訳されることが多いですが、日本におけるノマドワーカーとこのビデオで紹介されているNomadsはいわゆるノマドワーカーのイメージとはずいぶんかけ離れているような気がします。

夢と現実の乖離

動画に出演していた二人はどちらも「(ほぼ)夢のような生活」を送っている、と紹介されています。括弧付きの(ほぼ)の意味はあとで読み解くとして、街から街へとPC一つ(+生活道具一式を)持って渡り歩く生活は、旅好きの人からしたら夢のような生活に違いないでしょう。私自身旅が好きですのでこんな生活は憧れます。

では、日本で同じ言葉として捉えられている「ノマドワーカー」は、と言えば、会社ではなくカフェで仕事をしているだけ。会社員であれば会社には必ず顔を出さなければいけないし、フリーランサーと言ったところで税金やらなんやらの関係でどうしても住所は一定の場所に置かなければいけないので、結局近所のカフェがオフィスになっているに過ぎなかったり。こんなのノマドでもなんでもないですよね。Wikipediaにもあったように「ドヤラー」でしかない。

でも、旅から旅への生活が果たして幸せなのか、という点についてはこの動画を見ている限りでは若干ですがネガティブよりのニュートラル(「なしよりのあり」的なもんでしょうかね)と言うスタンスで取材編集をしているように感じられます。たぶん幸せなんだろう、だけどこの生活を得るために捨てたものも多いんじゃないのかな、という論調であり、だからこそ彼らは「(ほぼ)夢のような生活」である、と論じているわけです。

安定とは正反対の生活

動画はドイチェ・ヴェレ(ドイツ国営国際放送局、とでもいうの?NHKワールド的な感じ?)のドキュメント番組で、取材をしている二人のノマドワーカーもドイツ人と思われます。二人とも共通して言えることは、今の生活が安定しているとは言えないという認識をしていることです。「安定よりも自分らしい生活」、と言えば聞こえはいいですが、そのために犠牲にしていることもあることもつぶさに述べています。例えば寝る場所一つにしても、常に同じ環境で寝られるわけでもなく、なんならセキュアな空間ですらない場所で寝ることだって考えられるわけですし*1、収入も安定しないし実入り自体もそれほど多いわけではないし、旅から旅へ、という生活を続けざるを得ない(海外でずっと住んでいられるわけではなく、ビザの関係で滞在期間は限られてしまう)ということは渡航費や滞在費もそれだけかかってしまう、ということにもなります。

幸せについて考えたことがあるか

彼らにとっての「幸せ」ってなんだろう、と動画を何度も見直したのですが、結局「幸せなんて人それぞれ」という結論に落ち着きそうな気がしてなりません。ただ、彼ら自身はどうやら今のノマド生活を送っていること自体が幸せだとも思っているわけではなく、あくまでも自分が叶えたい夢の通過点でしかない、という意識を持っているように見えます。もっとも、現時点で不満だらけでもうやめたい、と思っているわけでもないし、我慢してこの生活を続けているということでもなく、あくまでも「多様な生き方の一つ」に過ぎないと考えているのだろうな、と思えます。

夢を叶えることも幸せというわけではなさそうですし、どうしても「今がそこそこ(不満ももちろんあるのだけれど、という意味で)幸せである」ということに重きを置いているのかな、とは思っています。 逆に言うなら、そんな不安定でお世辞にも幸せとは言い難い生活に飛び込む勇気や覚悟のようなものを強く感じずにはいられません。だからこそ今の生活が、決して幸せではないけれど自分自身が望んだものであり、その結果が今の生活なのだから、消極的な意味ではなく「幸せではないはずがない」、と考えているのかもしれない、とは思えます。

なんとなくカッコいい生活だけど

友人(と言っても元上司ですが)に旅好きがいます。昔はバックパッカーで今も旅関連の仕事をしています(旅カフェやってます)。そう聞けばカッコいいと思うでしょうし、今でも店を長期間閉めて旅に出る、ということを年1くらいでやっているとかいう話は聞いたことがあります。どんだけ自由なんだ、と思われるかもしれません。でも、長期間旅行に出るためには渡航費や現地での生活費もあらかじめ稼がなければいけないですし、そのために店をやっていると言っても過言ではないと聞きます。

彼らはデジタルノマドではないですが、いわゆるノマド生活を『志向』している人たちではあります。バックパッカー自体がノマド的ですが、ノマド生活を続けるためにどこかで定職につく、というのがなんとなく本末転倒のように見えてきます。が、それが実際の姿なわけです。デジタルノマドはたまたま仕事場に拘束される必要がないだけで、クライアントがいなければ金は稼げませんし、仕事がなければ何とかして糊口をしのがなければならないわけです(そのための貯えも多少ある、と動画内では語っていたりしました)。

「現実は厳しい」という一言で済ませることは簡単ですが、それだけの覚悟をもって初めてノマドワーカーとしての生活ができるんじゃないのかな、と感じました。私もできれば旅がらす的な生活をしてみたいとは思いますが、そのためにはいろんなことをクリアする必要があります。今の生活の半分程度を捨てることになるかもしれないかもしれない、とすら見積もっており、それはそれで困るわけです。そこまで捨てる覚悟は私にはありません。現実が厳しいとかそんなレベルではなく、自分の考えている生き方の中で捨てるべきではないものまで捨てなければノマドワーカーにはなれないというだけの話です。

オチも結論も出ませんが

結論を言いたいところなのですが、結局「人それぞれ」なんです。失敗するかもしれないですが、どんな状況であれ、新しい生活に入るためには自分や一緒に過ごす人たちの覚悟が必要ですし、それは自分が選んだことなのだから(家族も含めて、です)その生活を享受する以外ないわけです。それを幸せと感じるかどうかは本人次第ですし、幸せでなかったとすればたぶんそれはうまくいっていない、ということなのでしょう。 たまたま取材を受けた二人はそこそこうまくいっているに過ぎない、というだけのことだったのかもしれません。

*1:先日宿泊したホテルは、ドアはあったけれどカギがかけられない仕組みでした。貴重品は鍵付きロッカーに入れます。日本ですしそれほど都会と言うわけでもない郡山という場所柄ですから盗難の心配はしていませんでしたが、これが海外だったらちょっと怖いかな、と一瞬だけ思いました。