マーケオタクのボヤキ:SEOとブランディング

マーケティングを仕事でやってますよ、というと、最近必ず聞かれるのが、「SEOとかやっぱり大切なんですよねぇ。どうすればいいんでしょう」という質問です。基本的にSEOは「手段」でしかないと私は思っているのですが(後で詳しく述べます)、デジタルマーケティングフリーランサー界隈ではどうも(デジタル)マーケティングと言えば「SEO」と「リスティング広告」をやるのが基本で、その後に「細かい調整をしていく」みたいな理解をしているように見受けられます。

SEOは単なる手段でしかない

SEO(サーチエンジン最適化)は「どのようにしてサーチエンジン(≒Google)の検索結果で上位に食い込むことができるのか」という手法なわけですが、マーケティングの知識の有無でこの上位への食い込ませ方が変わってきます。

非マーケターのSEO

例えば、ある造り酒屋のホームページを例に挙げます。マーケティングの知識がないと、造り酒屋のSEOを行う場合、とにかく検索上位に上げる、ということを考えます。キーワードとして『日本酒』や『(産地)』など、当然入っていてもいいキーワードがある一方、『辛口』&『甘口』と言った、その酒蔵において矛盾するキーワードが含まれていたり*1、自社のお酒と似たようなテイストを持つ別企業の有名ブランドがキーワードに含まれていたり*2、要はSEO目的になってしまうわけです。

こうなってしまう理由は、SEO用キーワードをどのように取得するか、という(マーケティング的には本末転倒な)考え方に起因します。キーワードをどこから探すかというと、与えられた情報の中で考えればサイトそのものにしか探す場所はないわけです。そこでサイト内の文言を拾っていくと、「この作り方は甘口」「この時期は辛口」といった内容が記載されており、SEO対策用のキーワードとして必要と判断してしまうためにこのような矛盾が発生するわけです。

これによって、受注した人たちは大量のキーワードを投入することができるので、キーワード一つ当たりでいくら、という契約をしていればキーワードが多ければ多いほど報酬が高くなりますし、あらかじめ「〇〇個キーワードを抽出します」という指標を示しておけば追加でさらに数個追加しておけばクライアント側にも個数でアピールができて報酬ももらえる、ということになります。

マーケターのSEO

一方でSEOが手段であると認識をしているマーケターであれば、その前にやっておく必要がある事があることに気づきます。ブランディングです。

造り酒屋を例に挙げると、この酒蔵で作られたお酒を好むのはどのような人なのか、またはどのような人たちにアピールをしたいのか、といったことをまず最初に考えるわけです。仮にこの酒蔵で作られるお酒が甘口寄りであった場合、辛口好きの日本酒ファンにアピールをする必要があるかどうか、ということをマーケターは考えるわけです*3

あまねく販売できる商品であればとにかく理由もなく検索したら上位に出るように、というのはわかるのですが、そのためのコストもかかるとなれば、まずは絞り込んで最低限リーチしたい顧客に最大限購入してもらう、というやり方の方が効果的、と考えるわけです*4

ブランディングの重要性

ブランディング」という言葉を造り酒屋さん(クライアント)にすると、おそらく返ってくる答えは『いやいやそんな有名でもなんでもない、地酒を作っているだけの酒蔵ですよ。「ブランド」なんてあるわけでもないですし、そんなことより美味しいお酒を造っているんでみんなに飲んでもらいたいんですよね』と言った内容になるはずなんです。

美味しいお酒を造っているという自負はあるのだけれどその売り方がわからない、というのがクライアントの悩みですが、そこで「ではあまねく買ってもらえるようにしましょう」とするのか、「ではまずは美味しいと思ってもらえる人を増やしましょう」とするのか、というのがブランディングをするかしないか、という違いなんだと私は理解をしています。特に現代は大量消費の時代ではなく、更に言えば個々のダイバーシティが尊重されるような時代。マスアピールから個別アピールへと売り方も徐々にシフトして言っています。

デジタルマーケティングもマスアピールをすることもありますがCookieだったり(登録済)ユーザの行動履歴などからの個別アピールに長けています。だとしたらなぜ「あまねく」マーケティングをしようとするのか、というのは、あくまでも私見ではあるものの、『面白くない』です。ブランディングをしっかりと考えて、ファンになってもらえそうな人たちにアピールしてコアなファンを作るのが『面白い』のではないでしょうか。

*1:通常同じ酒蔵で甘口の酒を造っていたら辛口のお酒はあまり作られないわけです。もちろん作り方によって多少テイストが異なるので「この作り方だと若干甘め」「この時期の酒は少し辛口」みたいなことは起こりうるのですが、だからと言ってこの酒蔵で甘口と辛口どちらも扱っている、ということにはなりません。

*2:昔はそういうケースがあったんですよね。今はおそらく検索エンジン側での対策がなされているとは思うのですが。

*3:もちろんマーケターは「エスキモーにアイスを売る」ことができなければいけないのですが、そうすべきかどうか、という判断ができる材料まではクライアントに提示する必要があります。

*4:パレートの法則で考えてみてもいいでしょう。80%の顧客にリーチできて購入率が20%であった場合と20%の顧客にリーチして購入率が80%の場合。実際の購入金額がどちらも同じになったとして、リーチするために費やした費用が少なければ少ないほど効果的と言えるわけです。