マーケオタクのボヤキ:マーケツールとしてのSNSの使い方

仕事で仲良くなったとあるお店の店主がFacebookでイベント告知をしていたので、ちょっと気になってイベントの概要をチェックし始めたのですが、とにかくほしい情報にたどり着けなかったのですよ、というお話です。『これが今の常識』、と言いたいのはわかるのですが、実際にそうだとしたらあまりいい常識じゃないなぁ、とオールドスタイルなマーケオタクとしては思ってしまうのです。

顛末

もともと仲良しの店主とは、店舗も訪れたことがあるし顔見知りではあるので、他の店舗とのジョイントイベントの投稿を見て最初に思うのは、「お、やってるじゃん」という程度。日程を見て、そのイベントには参加できないなぁ、と判断すると、もちろんその店主の店に次はいつ行けるのか、と考えますが、さらに、ジョイントでやっているほかの店舗さんの情報も気になります。なにやら美味しそうな文字が並んでいれば調べたくなるのが食いしん坊の性、というヤツです。

そこで店舗名を調べてみる(ググってみる)のですが、なぜかヒットしないんです。検索のトップに表示されているSNSの投稿やページをクリックしてみるのですが、どうもその店舗に関する情報なのかどうかの確証が持てないんです。

そもそも、ジョイントイベントのフライヤーには、店舗名と販売している商品についての情報が1行でまとめてあるだけ。デザインとしてはすっきりしていますが、ざっくりとした内容で店舗の売りもなにもわからない。例えば「無添加グルテンフリーのパン」と書いてあっても、同じ商材を扱う店舗はその地域に1件しかないわけではないですし、全国展開もできるSNSにおいて、商圏が全国に広がっている状態で同業他社は増える一方。アピールポイントが見いだせないフライヤーになっています。

投稿には「@(アットマーク)」で始まるユーザ名らしき情報もあるのでクリックしてみると、どうやらInstagramのページに飛ばされるようです。飛ばされた先のページには美味しそうなパンの写真ギャラリーが並んでいます。それぞれクリックしてみますが、パンの名前やお店の名前はタグ付けされていたりするのですが、肝心の「この店がどこにあるのか」がまったくわかりませんでした。パンであれば他にも行きたい/買いたい店もありますし、馴染みの店もあるので、その店に対する興味はそこで失せてしまいました。

SNSマーケティングにおける「大きな勘違い」

小規模店舗を立ち上げる時に限った話ではなく、どうやって最初の顧客を呼び込むか、というのは実は一番難しい問題です。パンの話で言えば、自分の家族以外の人たちに、「美味しい」「見合った価格である」「買いやすい」といった情報をどのように伝え、実際に行動を起こさせるのか。そして、その顧客数がどの程度まで増やせるのか。

ターゲティングや商圏分析、商材自体の分析など、専門的な用語を並べてしまうとよくわからなくなるのですが、まず何より誰かに買ってもらうこと、「ファンマーケティング」という手法ですが、まずはこれを実店舗がある場合は店舗のご近所さんから実践すると、先ほど挙げた専門的なマーケティング手法の実践につながっていきます。具体的な例は別項で説明をしますが、何とかして顧客0から1に増やすことが必要です。

そこで便利なのがSNSです。いわゆる「映(ば)える」写真やタグ付けをしておけば、勝手に検索をして勝手に流入してくれる。とても「映える」写真や動画であれば「いいね!」がたくさん付きますし、レスポンスもたくさん帰ってくるはずです。『美味しそう』『食べてみたい』などなど。

SNSの投稿をする側である店舗は当然ページのアクセス数やレスポンスの数を確認できていますし、レスポンス率が高いということはそれだけ「興味を持っている」ということでもあるので、顧客が訪れるであろうという期待を持っているはずです。しかし、実際にふたを開けてみれば、思ったほど客が訪れるわけでもなく、SNSで大人気であった商品も売れ筋とは程遠い売れっぷりだったりします。結局「頑張ってみたけど売れなかったよね...」となってしまうわけです。

そう、SNSでどんなに「いいね」やレスポンスがあっても、それが顧客の購買行動に結びつかなければ何も意味がないんです。これを勘違いして、レスポンスだけで満足してしまっている人たちが多いんです。

「古い」マーケ手法を使っている

SNSマーケティングをするときによく聞く言葉に、「AISAS」という言葉があります。電通さんが提唱した、インターネット時代の購買行動様式なん(だそう)ですが、

  • Attension(認知する):商品や店舗を知るフェーズ
  • Interest(興味を持つ):商品や店舗に興味を持つフェーズ
  • Search(「検索」する):商品や店舗に関する情報を集める*1フェーズ
  • Action(行動を起こす):※1
  • Share(共有する):※2

と、上から順に行動していく、と考えています。ちなみのこれ、提唱されたのは2005年で、人によっては「古い考え方だ」と吐き捨てたりもします。確かに私も古さを感じはしますが、おおよそこの流れで現代人も購買行動を起こしているのかな、とは思っています。

私が古さを感じている、というか、現代人の行動様式と違うかな、と思っているのは、Action→Shareの流れ、というか、その前段階のShareからの一連の流れがちょっと流動的だな、と感じていたりします。

本来※1(Action)の説明箇所には、「商品を購入する/店舗を訪れる」という実際に購買をするという行動が示されています。そして※2(Share)についても、「『購買後に』情報を共有する」と定義されています。ただ、提唱された当時はまだSNSも黎明期(Facebookmixiは2004年のローンチですが、Twitterは2006年、Instagramが2010年、LINEは2011年)、むしろブログ、特にアルファブロガー、今でいうところのインフルエンサーによる情報拡散が行われていくだろう、という意味合いが強い印象を受けます。

今はどうかというと、Share(共有)の意味合いが以前に比べるとかなり変容しているようには感じます。もちろん「インフルエンサーマーケティング」という言葉も存在しているように、購買→共有による情報拡散、という流れはあるのですが、SNS自体の利用障壁が以前に比べて下がったことによって、商品の購入とは無関係に「映(ば)え」に対する共有(≒共感)が発生しているのではないか、と考えています。だから、「いいね」に呼応するコメントも、『きれい』『かわいい』『美味しそう』であり、「美味しかった」ではないし、写真というコンテンツ自体に対するリアクションでしかないわけです。「承認欲求」というキーワードが想起されます。

基本(原則)に基づいて考え直してみる

マーケティングの本質、というか本来の目的は、

お客様に商品を買ってもらうこと

です。通信販売を行っておらず、1つの店舗だけで細々と営業をしているのだとしたら、どのようなマーケティング手段を使うにせよ、最終的に必要な情報は、店舗への道筋です。住所、地図、連絡先(電話でもメールでも、SNSのメッセージでもいいですが)。商品に興味を持ち、店舗に足を運んでもらい、初めてお客様は商品に対面するわけですし、その時点で興味をすでに持っているはずですから(AISASを参照)、よほどのことがない限りその商品を手に取り、購入をしてくれるでしょう。

「ターゲティング」の概念自体はSNSにそぐわないかな、と思うのですが、だとしても広告媒体としてSNSをとらえた場合、商品を見て、その商品を飼うことができるかどうか、という判断ができる情報として、実店舗だけなら住所の記載があること、通販での販売をしているなら通販サイトへのリンクがあることは、顧客のターゲティングにはつながります。そぐわないと私が言う理由は、日本全国のみならず世界に向けて発信しているSNSと、実店舗であればとても限られた商圏との乖離があるし、通信販売にしても通信販売サイトへのアクセスができる人とできない人が分かれてしまうことがあるよ、という意味であって、世界にオープンだから、住所もいらないよね、とはならないわけです。少なくとも店舗で商品を作って売っている人たちにとっては*2

商圏分析や商品のSWOT分析(特に強み・アピールポイント以外の部分)も、SNSとはかけ離れた印象があるのですが、SNSを見て検索をしてみれば、どこもかしこも「オーガニックな」「グルテンフリーな」「からだにやさしい」モノばかりが「通販でも手に入る」。

商圏分析に関して言えば、本来は自店舗の周辺で、例えば同系の業種がいないかどうか、購入の見込みのある顧客層が住んでいるのかどうか、といったことを調べるわけです。パン屋で言えば、同じような商品を売っているパン屋さんがすでに近くに店を構えていて、売上も高く、評判も良い、となると、後発の店舗としてそこに店舗を構えるべきかどうかの判断材料になりますし(店舗を構えるということは勝てない勝負を挑むことになりかねない:レッドオーシャン理論)、仮に近隣に競合店がなかったとしても、パン食をあまり好まない世代の方たちが多ければ、例えば硬いパンを売りにしているにもかかわらず周囲には老人しか住んでいないとすれば、おそらくそのパンは売れないだろう、とか。

商品の分析について、上記のような分析(硬いパンと商圏)もありますし、同系の業種がいたとしても、商品の強みが差別化につながるのであれば、同業他社との共存という可能性も見いだせますし*3、逆に商品の弱みを売りにするパターンもあるので*4分析は必要だと思いますが、SNSが広範囲に情報を拡散できることを考えると、その中で自社の強みを出すのは、よほど強いメッセージ性や商品企画力がない限りは他の類似商品の中に埋もれてしまいます。

SNSと旧来のマーケティングは並列で運用しないと

とかく「SNSは無料で多くの顧客にリーチできる」という利点だけがクローズアップされてしまい、とにかくSNSだけで顧客を増やせばいい、とSNSにおんぶにだっこ、という人たちは多いような気もしています。ですが、どうも店舗の特性とSNSの使い方がちぐはぐな印象を受ける方たちも多く、なぜ昔ながらのマーケティングをしないんだろう、した方がいいのになぁ、と感じることはとても多いです。

特にリアル店舗を構えていて、食品を取り扱っていて、かつネットショップの運営ができない、という条件が重なっている方たちは、ぜひSNS以外のマーケティング手法を採用してほしいと思います。と言っても、広告を打ち、ダイレクトメールを大量に送って、というような話だと広告代理店などを介さないといけないしお金がかかる、とお思いでしょうが、実際には自分でもなんとかできるわけです。

広告を打つのもDMもそうなんですが、近所の家々にチラシを自分で(プリンタでも手書きのコピーでもいいですが)印刷して自分でポスティングすればいいんです。ご近所さんと目が合えば、ご挨拶しながらチラシを渡せばいいんです。その方がよりご近所さんが興味を持ってくれますよね。店舗があるということは(そして食品の取り扱いなら)「商圏」は一般的に狭いんです。まずご近所さんをファンにすることを考えるだけでも十分売り上げに貢献するはずなんですよね。

*1:インターネット時代では情報を集めるためにまず「検索」します。

*2:商品を持たず、店舗も持たない商売をしている、例えば私のようなフリーランスエンジニアであれば、SNSやオウンドメディアなどはターゲティングのための道具としては最適ではありますが。

*3:競合が国産小麦で売っていて、自社がグルテンフリー/アレルゲンフリーで売っているのであれば、お互いに顧客層が被らない可能性が出てきます。

*4:賞味期限がめちゃくちゃ短いケーキなんかはその好例でしょう。店舗に来なければ絶対に食べられないですから、店舗で食べるというイベント自体が「映え≒共感」につながるので。