マーケオタクのボヤキ:フリーランサーが稼げるようになるたった一つの「キーワード」

毎年、年の暮れには酉の市に出向き、お約束の熊手を買い、年が明ければ初詣に出かけ、神仏に商売繁盛を願う、というのはフリーランサーに限らず商売をしている人たちが必ず行うルーティンのようなものかもしれません*1。でも、何度も神頼みをすれば稼げるというわけではないわけで、結局「どうすればいいのか」ともがきながら売上を上げているのがほとんどのケースなんだろうと思うんです。

せっかく年も明けたことですし、少し「どうやって稼ぐか」ということについて真剣に考えてみたいと思います。

1日8時間労働では足りない?

私は専業フリーランスですので、1日に働く時間は自由に決めることができます。とは言っても寝る時間や休みも必要だと思っていますので、おおよそ1日8時間程度、一般的な会社員と同じくらいの業務時間で週5~6日働いています*2

稼ぐためにどうすればいいか、と言うと、一番最初にこの「労働時間」の延長が思い浮かびます。私自身、ずっと週5で土日休みを貫いてきていましたが、ここ最近忙しくなったこともあって、月1程度土曜日に仕事の時間を入れています。特に落ち着いて取り組みたい仕事などがあると、クライアントからの問い合わせも少ない土曜日の仕事はずいぶん捗りますし、かといって平日に「代休」を取るほど暇もないので、結局毎日働いているような気分になることもあります。

ただ、これで「稼げるようになったのか」、というと微妙なところで、多少仕事量が増えたことによる進捗の遅れは取り戻せている気はしますが、稼ぎに直結したという印象はありません。ではもっと、例えば1日16時間働けば稼げるのか、と言うとおそらくそんなことはないはずです。仮に週5で8時間と、週6で16時間の勤務時間の差は単純に倍にはなるのですが、生産効率が果たして保てるか、というと、おそらく難しい、というよりは無理ではないかと思います。

企業では「三六協定」というのがあり、1日の勤務時間を8時間と定義していて、さらに労働基準法で、「時間外労働の上限(「限度時間」)は、月45時間・年360時間」を超えてはいけない、と規定されています。1か月20日を勤務に充てたとして、月45時間であれば1日当たりの時間外労働の上限は2.25時間(2時間15分)、年換算で考えても(360÷(20×12)=)1.5時間程度です。働きすぎて過労死、とかいう話もその通りなのですが、働きすぎることで正常な思考が保てなくなることがまず最初の問題であって、そもそも1日16時間も働いたところで1日8時間で生産できる「モノ」の倍量生産できるわけではありません*3

1日どの程度働くのが理想的かは私自身まだわかりませんし、体調との相談だったりもするのですが、世の人たちが一般的に働く時間を圧倒的に超えてしまっても生産性は上がらないし、稼げないだろう、とは思います*4

「自社サービス」を作ることは?

私もフリーランスになりたての頃、これを考えていました。...いや、正しくないな。自分でWebサイトやスマホアプリを作って世に出して、それを収益化しよう、というアイデアは今でも頭の片隅にあります。事実、趣味のブログであったりYouTubeデビューであったりと、実現に向けての行動を起こしているものもありますが、これは必ずしも「稼げる」わけではありません。

ネット界隈では「レバレッジ」とか、もっと直接的な言い方で言うと「不労所得」とか、そういったキーワードで出てくる内容を含んでいたりしますが、要は自分でサービスを提供する側に回ることで、そのサービス利用料金などの収益が得られますよ、というお話です。少なくとも『誰かから仕事をもらって稼ぐ』ということではなく、自分で付加価値(とお金)を生み出すサービスを提供するという、一歩踏み込んだやり方です。今どきのビジネスモデルだと「有料サロンの運営」もコレですよね。

ニッチなジャンルに踏み込んでいけばそれだけ固定客も付くだろうし、自分が仕事を取りに行って働くスタイルではなく、自分に客がついてその客がお金を落としてくれるスタイルなので、100%稼げない、とは言いませんが、仮に稼げたとしても、こういったサービスの提供を行うまでの時間、そして提供してからのサービス運営にかける時間は、当然ほかの仕事(自分で取ってきた他人の仕事)を行ったうえで行うべきことであり、時間を相当量費やす必要があるわけです。もちろん効率化をする余地があるのだとは思いますが、それにしたってよくアヤシイ商材に書いてあるような「1日1分メールチェックするだけでOK」というレベルでの運用になるまではそれこそ長い長い時間をかけてサービスの構築や運用を続けてこないとたどり着けない境地でしょう。

似たようなパターンに他人に仕事を頼んでしまう、というのもあります。自分が働かなくてよく、人を(悪く言えば)転がして上前を撥ねるやり方ですが、自分が稼ぐためには撥ねる上前の金額を上げるか、上前をもらえる頭数を増やすか、しか方法がなく、前者の方法では受注するときの金額が高額になり失注確率が上がるか、作業を依頼する側の手取りを少なくすることで依頼者がいなくなってしまうか、といういずれかのリスクがあるわけです。結局安全なやり方は後者の受注件数を増やすこととなってしまい、マネジメント業務も含めれば相当な業務負荷となりうるわけです。

意外な最適解

意外、というか、真っ先にあきらめてしまって考慮していない点、というべきなんでしょうが、

  • 単価を上げること
  • 既存顧客からの継続案件を増やすこと

の2つについては、今まで挙げた方法に比べて時間(労力)をかけなくても稼ぎ=売上の向上につながるやり方です。

単価を上げることに関して言えば、「サラリーマン上がり」のフリーランサーなどは「毎年何パーセントか単価を上げてもらうことは可能だろう」とお思いでしょうが、実際にはめちゃくちゃ難しくて、私もこれで苦労しているクライアントが何社かいたりします。が、単価を上げることが絶対に無理、ということではありません。「単価の上げ方」については別のところであらためて方法論を紐解いていきたいと思いますが、キーワードは「クロスセル」です。これができなければ単価は上げられない、と思っていいです*5

その意味では、既存顧客からの仕事を継続的かつ多くもらう、というのが現実的でしょう。「通常のクライアント」であれば、自身の業務の拡大に伴って作業量が増えていくはずで、それをフリーランサーに外注に出すという流れを取るのだから、その仕事をどれだけ自分(フリーランサー)に振り分けてもらえるかで、自分の売上が増えていくはずです*6。ここでもクロスセルや、「アップセル」なんていう、マーケオタクならではのマーケ用語を連発してみますが、結局はクライアントに自分を売り込んで、他の仕事もくださいよ、と交渉をするのが、フリーランサーにとっては意外ともいえるやり方です。

でも、クライアントだってそんなことはわかっていますし、できるだけ外注費も抑えたい(でもプロダクトはリリースしたい)ので、「仕事をくれ」と言ってよくあるパターンは、「じゃまとめてかなりのボリュームの仕事を出すから割引してよ」。これは受けてはダメです。単価割れも発生しますし、割引の要望を一度受けてしまうと今後も同じように、またはもっと割り引くように要望されるようになります。当然ボリュームは増えますがそれだけ単価が安い仕事になってしまうわけで、結局売上に貢献しなくなっていきます。

最終兵器

もう一つ、これは最終手段というよりは、ある程度売上の見込みが立つようになってから、という話ではあるのですが、

  • 単価の低いクライアントからの仕事を断る(または取引を止める)

という、簡単なようで難しく、難しいようで意外と簡単な方法です*7

この手のクライアントは、「単価の割に時間ばかりかかってしまう」はずなんです。でも、過去のしがらみや、もしかすると前項のような、割引して単価ベースで考えれば激安なんだけど仕事は安定して大量に供給してくれる、とか、そういった『安易に手放すことができない』クライアントだったりします。

私はどうしたか、と言えば、すごく簡単で、仕事が忙しかろうが死ぬほど暇だろうが、対象のクライアントから仕事の依頼が来た時に「今忙しい」と依頼を断りやすくしました。言い方は悪いですが、他にも仕事をしてくれる人はいくらでもいるでしょうから、条件の合いそうな人をクライアントが探して依頼すればいいことなので、それでいいんです*8

もちろん、「あなたにしか頼めないんです」となれば今度はこちらに交渉権があるわけで、「仕方ないなぁ、時間割いて仕事してあげてもいいけど、単価高くなるよ。それでもいいのかい?」と*9こちらに有利に働くように交渉を進めればいいわけです。

「セルフマーケティング」がカギ

新しい商品やサービスなどの提供がカギになるのであればいいのですが、結局は自分が普通に働いていて、それに見合った単価の支払いがあることが「効率的に稼ぐ」方法であり、そのために考えなければいけないのが「セルフマーケティング」ということになるわけです。ここまで書いた内容を「セルフマーケティング」という観点でまとめなおすと、

  • (適切な)単価設定を行うこと
  • 新規顧客の獲得より既存顧客のリテンションを重視すること
  • (新規・既存ともに)安請け合いをしないこと

に尽きるんです。

単価設定の一例

私は実は、普段はお客様には(そしてブログでも)公開していませんが仕事における受注の目安となる「料金表」を作っていて、それに基づいて仕事を受けています。一例で言えば、最近多いPHPの開発については、時給3500~7000円の範囲で仕事を受けるようにしていて、発注をしていただく企業によってだいたい金額を変えて提示をする、というやり方です。金額の範囲についてですが、最低の時給として設定してある下限金額の2倍~3倍を上限金額と設定していて、特にプログラミング系については2倍を上限と決めていますが、どの範囲内で、発注先の「足元を見て*10」決めています。

新規獲得<既存顧客リテンション

私の持論、というよりもこれは、顧客獲得の「パレートの法則」です。労力やコストがかかるのは8:2で新規獲得です。売上は8:2で既存顧客のリテンションをする方が上がります。私の見立てではありますが、クラウドソーシングをやっている人たちはこれを理解できておらず、とにかく新規顧客から仕事を獲得したい、と苦労している気がしますが、そうではなくて、取引を何度もしてくれるお客様は大切にして、仕事の量を増やしてもらえるように交渉する方が新規顧客へのアピールをするより圧倒的に楽なので、これはできるだけやった方がいいと思います。かといって新規顧客の獲得も忘れないようにしないと、突然既存顧客が「店をたたんでしまう」ことだってありうるので、バランスを考えて営業活動をすべきなんですよね。

安請け合いをしてはいけない

新規獲得でも顧客リテンションでも同じなのですが、「特別な事情があって単価を下げる」のは絶対NGです。わかりやすい例が「新規獲得時の単価交渉」です。他のフリーランサーと競争になった場合、例えばクライアントから『ほかのフリーランサーが単価〇〇円でやってくれると言っていてそっちに惹かれている』と言われたらどうしますか?「うちは単価△△円(〇〇円より安い金額)でやらせてもらうんで是非」と回答したいのはやまやまですが、その単価が自分の損益分岐点以下であった場合は、どんなにクライアントが魅力的であったとしても断るべきです。もっと言えば、「単価××円(〇〇円より高い)は譲りませんが、クオリティは保証しますよ(その前段階で品質の良さについて説明がされていることが前提)」など、金額以外のメリットがあって競合との差別化を図ることができるというアピールをした方がいいわけです。もしくは断るか。

特急料金も安請け合い

安請け合いと言えば、これは既存顧客に多いケースですが、「特別な事情があって作業とは別の『手当』を要求する」のもNGです。前項でまとめて割引をする話をしていますが、逆のパターンとして、『特急料金』の設定をするケースです。手取りが増えるんでいいじゃん、と思われるかもしれませんが、これは顧客にとって「あ、『特急料金』さえ払っておけばどんな仕事もしてくれる」と理解されてしまいます。暇なときに「至急案件を頼むよ」と言われれば直前でも対応が可能ですが、忙しい時に「金を積むから仕事をしてくれよ」と言われても、他の仕事も請け負っているのに仕事ばかり増えていき、最悪どちらもコケてしまう、というパターンに陥る可能性だってあるわけです。

自分を正しく売り込みましょう

安いことがメリット、という商売もないわけではありませんが、安さには必ず別の企業努力があって初めて安さを実現できています*11フリーランサーも「企業努力」によって多少単価を下げることはできると思いますが、かといって損益も何も考えずにただただ「ほかのフリーランサーより1円でも安く」とはできません。しかも、常に損益ぎりぎりで受注していてもいつまでたっても稼げません。

自分のポジションを見つけて、売上ではなく利益を得られるような仕事を受注するために、自分を「正しく」売り込んでいく必要があります。

*1:私は酉の市にはいつも行きそびれていますが、毎年初詣に行った先の屋台でだるまと熊手を買うようにしています。どうでもいいことですが、やっぱりルーティーンです。

*2:週6になるのは最近は月に1回程度です。

*3:超短期的にはそれでもいいかもしれませんが、これが恒常化することで最終的には生産性がガタ落ちしていくはずです。昔若かりし頃、私も100時間/月の残業をしていましたが、生産性という面で果たして効率的であったとは到底思えません。ただただ目の前の残タスクを片付けてデッドラインギリギリの仕事をずっとしていただけに過ぎません。

*4:「複業(パラレルワーク)」をしている人たちの否定をするわけではないです。

*5:フリーランスの世界で、「長年貢献をしてくれているから作業単価を定期的に見直そう」と言ってくれるクライアントは今まで見たことがありません。ある業務における単価は契約から何年経っても変わりません。だから「クロスセル」で他の業務の受託をして、そこで単価を現状より上げる、というやり方を取ります。

*6:専属、とまでは言いませんが、メインに近い発注をしてもらえるようになればいいわけです。

*7:私は売上の見込みがあまり立っていない段階で何社かに対してこの対応をしました。

*8:その仕事を自分が受注せず、業務ができなかったことで自分に責任があるわけではない、ということは理解すべきです。

*9:もちろんそういう言い方はしませんが、そんな体で、です。

*10:言葉が悪いですが、実際には発注先がどの程度仕事しやすいかなどを最初の段階で見極めて値踏みをしています...、あぁ、やっぱり言葉が悪いなぁ。

*11:ファストフードは安さがメリットですが、原材料の仕入れや業務効率化などを行っているからその分を商品価格に転嫁できています。