マーケオタクのボヤキ:風情(ふぜい)

2020年の年の暮れ、仕事がほぼ終わったころにこのネタの下書きを書き始めています。いきなりネタバラシかよ、とお思いでしょうが、2020年の年末に思ったことの一つとして、「今年は季節感が全く感じられない一年だったなぁ」という感情でした。

2020年はコロナの年

「コロナ元年」とでも言いますか、新型コロナウィルス(COVID-19)の感染が拡大し、感染拡大を食い止めるための自主的な自粛や公的な措置に伴って、季節的なイベントなども軒並み中止、外出の機会も減って、とにかくCOVID-19に振り回された一年でした。「新しい生活様式/New Normal」という言葉が盛んに叫ばれ始め、それに伴うソーシャルディスタンスだの巣ごもり消費だのといった新しい言葉も多数生まれ、マーケティング的にも今まで(の潮流)とは異なる動きに戸惑いがあったように思えてなりません。

もっとも、2020年は気候的にも、冬は暖冬で雪の便りもなかなか届かず、梅雨はほぼ平年並みの期間だったとはいえ関東ではずっと雨が降り続く当たり年、梅雨が明けて夏本番、と思いきや9月に入ってからはずっと涼しい日が続き一気に秋の様相を見せ、そのまま年末に向かう、という、あまりメリハリのない(印象に残らない)気候で、そういった意味でも「季節感」の薄さはあったのだと思いますが、やはり季節によって変わる人の動きが制限されていたことで更に季節感が薄れてしまったのではないか、と思っています。

マーケティングと「季節」

マーケティングにおいて季節感は密接に関係しています。「デジタルマーケティング」という世界では関係ないと言う人たちもいますし、季節に関係なく売れるものは世の中には存在しますが、そうは言っても時期によって売れる売れない、ということは一般的には季節と関係していると考えていいのです*1

これが、人の動きも制限され、イベントなども控えられてしまうとどうなるか。2020年の例で言えば、オリンピック需要を見越したマーケティングが失敗、というか活動自体ができなくなってしまうことになりましたし、消費行動自体の変化がもともと考えていたマーケティング施策と合わなくなってしまったり、根本的な見直しが必要になってくる、という識者の声は多く聞かれます。ただ、私に言わせれば「そりゃ当たり前」で、キーワードとして挙げられる『新しい生活様式』に合わせたマーケティングは必要ですし、楽観的に「すぐに今までの消費行動に戻るだろう」と今までと同じ施策を打っていても売れることはもうないですし、生活スタイルの大きな変容に気付かないままのマーケティングは無意味だと私は思います。

とは言え、COVID-19で日本の四季がなくなったのか、と言えばそれはまた違うわけで、生活様式とは別に「季節」を意識したマーケティングはまだ使えますし、むしろ消費者に季節感を強く意識させることでメリハリを感じてもらうことだってできるんではないのかな、と思ったりはします。

季節と風情、わびさび

実はこの記事を書くまで「風情」という言葉が日本特有のものであったとは知らなかったのですが...。

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「風情」は「わび」「さび」などと同じく日本的な美意識なのだそうで、

一般的に、長い時間を経て大自然によりもたらされる物体の劣化や、本来あるべき日本の四季が造り出す、儚いもの、質素なもの、空虚なものの中にある美しさや趣や情緒を見つけ、心で感じるということ

で、わびさびがどちらかと言うと廃れていくものに対する感情であることに対して、より「移ろい」に重きを置いているのが風情かな、という印象を受けます。桜は咲けば必ず散るし、新芽の萌黄色も季節が変われば鮮やかな緑色からさらには紅葉の時期に赤くなったり黄色くなったり。葉が落ちれば一面の銀世界、そして春に戻り、雪解けを迎えると間もなく桜が...、と、季節が繰り返し、失われるものの代わりに新しい何かが生まれるという、仏教的(輪廻転生)な移ろいが風情なんだろう、と理解をしています*2

よくマーケティングで耳にする季節概念として、『二十四節気』があります。更に二十四節気の1つを3つに分けた、『七十二候』というのもあって、どちらもその時期の季節を表す言葉になっています。だからと言って、例えば今が(二十四節気の)「小満(5月下旬)」だから、または(七十二候の)「麦秋至(5月末)」だから、〇〇を売り出すべし、みたいな話には直接はならないのですが、農作物や農産加工品であればそういった季節と収穫はリンクしていたりしますし、年間計画をしているマーケティング施策のトリガーとして使うというやり方もあります(「春分の日特別セール」、みたいな感じで)。

こういった「風情」をマーケティングにもっと取り入れてもいいんではないのかな、と思うんです。それこそ季節感をあまり感じられなくなった今だからこそ、「夏こそ」「冬だから」みたいなキーワードは、イベント中止や巣ごもりで季節のメリハリがなくなった今こそいいフック(キーワード)になるんではないのかな、と思うのですが。

科学的アプローチは必須

さて、ここまで「季節感が」と延々と非科学的なことを述べてきたわけですが、そもそも季節感とマーケティングを結びつけるために必要なものは「エビデンス」だったりします。好例なのは、「土用のうなぎ」の話でしょうか。

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「平賀源内がうなぎ屋から相談を受けて...」というくだりは真偽はともかく、他の時期に比べて夏場はうなぎ屋の売上が落ちていたというエビデンスがあってこそ、「夏にうなぎを売る口実(マーケティング施策)を作る」必要があり、それが諸説ある土用のうなぎエピソードにつながっているようにも思えます*3。正直ベースで考えれば、旬の季節だから新物を売り出すし、旬と真逆の時期は売るものもない(または貯蔵品だけ)のであまり売れないし、となるのですが、売れないタイミングがある、ということを「仕方ない」と考えずに、その時期だからこそ売れるようにする、というのがマーケティングの真髄だと思います*4

COVID-19で売上が落ちた、という方も多いと思いますが、それは本当にCOVID-19の感染拡大に伴うものなのでしょうか。大きく言えばそうかもしれないのですが、もっと細かい要因があるのではないでしょうか。例えば居酒屋。飲食店はどの業態も軒並み売上が減ったと耳にします。大きく言えば確かに「コロナのせい」なんですが、そのせいで『何が起こったのか』そして、代わりに消費者は『何をしたのか(または何もしなかったのか)』という問いかけは売上減少の分析と対策には必要なことです*5

「風情」を感じるマーケティング

クリエイティブ面では意識されることが多い「風情」であったり季節感ですが、全体的な施策の方向性に「風情」が組み込まれることで、より消費者の消費意欲を高めることが可能です。そして、マーケティングを実施する側にとっても、効率的な施策実施が見込めます。例えばホームページの掲載内容を季節によって変更するというケースでも、「年明けなので」「夏なので」みたいなざっくりとしたスケジューリングから、「年末年始は12月〇日~1月〇日なので」「夏商戦を〇月〇日~〇月〇日まで行うので」となっていれば、バナーや売れ筋商品の入れ替え等の作業も実施しやすくなります。

カレンダーを使ってマーケティング施策を作るケース、マーケ業界内では「50週カレンダー」なんてモノもありますが、こういったものを使って施策の計画を立てることも有益です。

ま、マーケオタクの言うことなんで、あまり真に受けていただかなくてもいいんですが。


*1:デジタル系商材であれば、例えば「情報商材」と呼ばれるノウハウ系のデジタルデータ販売。特に季節関係なく売れるはずのものではありますが、春先(4月)や秋口(9~10月)によく売れるのではないかな、と想像できます。「異動」がキーワードですよね、転勤だったり部署異動だったり。そういったタイミングで「部下に嫌われない上司になるためには?」といった情報商材は売れるでしょうし、7月あたりにはおそらく売り上げが落ちるはずですよね。

*2:あくまでも感じ方なので人それぞれ、と考えてください。私はそう考えるので、この後も季節の移ろいというキーワードをそのまま風情と読み替えて書いている、と考えてもらってOKです。

*3:そもそも「平賀源内が考えた」という説すら眉唾で、うなぎ屋が当時有名だった平賀源内の名前を借りて看板を掲げたのが話題になった、ということだって十分考えられるわけです。まぁこうなると「捏造」なんで今のご時世では到底考えられない所業になるわけですがね。

*4:私の師匠の口癖ですが、「真冬に氷を売る」のがマーケティングなんだ、と私も信じています。

*5:コロナのせいで「全体的な客足が遠のいた」とすると、その客はどこに行ってしまったのか。巣ごもり(家飲み)消費が増えたのだとすれば、居酒屋メニューのテイクアウト施策が効果的に思えますし、ある特定の顧客層、例えば高齢の客層が来店しなくなったのだとすれば、テイクアウトの注文にスマホアプリを必要とするUber Eatsを使うという施策は今一つ響かないような気がします。