ニッチな世界へようこそ

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転売ヤーが跋扈する中、その転売ヤー本人に取材した記事が、まさかの新聞に載る、という(ネットオンリーの記事?)面白い記事を見つけて読んだのですが、どうやらその記事、連載になっていて、まさに、

子どもが憧れる職業にはランクインしないが、需要があればこそ、存在するなりわい

を紹介する連載記事。まだこの記事を書いているタイミングでは5回しか連載されていませんが、コスプレイヤーまとめサイト、エロ系ネタなど、「あぁ、そんな世界もあるよね」と思い出してニヤリとしてしまい、さらに「中の人」の生々しい現実を見て多少感情を揺り動かされたりします。

ただ、読んでいてふと、『そういえば自分自身も最初ニッチな世界にいたはずなんだがなぁ』と思い出したので、自分の過去も絡めながら記事の読後感想文を書くことにします。

記事を読んで思ったこと

5回分全部読んでいますが、今回は転売ヤーさんの記事に注目します。実はTwitterでこの記事がトレンドに上がっていて、それが読んだきっかけでした。

あらかじめ書いておきますが、私自身は異常なまでに価格を釣り上げて転売を行う行為に対しては反対です。ちょうどこの記事の下書きを書いている日(11/12)にPS5が発売され、早速転売ヤーたちが動いていた、というニュースを目にしたところですが、たかが1台しか入手できなかったであろう人が、5万円のモノを10万円で売りさばき、5万円(弱)の利ザヤを得ることができたとして、たったそれだけの儲けのためにどれだけ費用をかけて元の5万円するモノを入手したのか、本当に考えているのだろうか、つまりその利ザヤで稼いだ5万円は本当に「儲け(=利益)」だったのだろうか、と私は思っています。

転売ヤー

さて、記事の話。

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2ページくらいの短い記事ですのであえて要約もしませんし引用も最低限にしておきますが、多分「転売ヤー」たちの考えはこの1行に集約されるのかな、と思うんです。

モットーは「楽して稼ぐ」。

誰だって苦労することは嫌だし、辛いことも経験しなくてよければ避けて通りたい。『若いころの苦労は買ってでもしろ』とは私も若いころに親や上司から言われていたことですし、事実若いころに避けていたことを30台後半くらいで直面せざるを得なくなるケースは何度もあって、それこそ「若いころに経験しておけばよかったのかもしれない」とは思いました。

でも、やっぱり「楽」をしたい。記事の中で転売ヤー氏も語っていましたが、

そこそこの生活でいい。転売で1カ月頑張って、その稼ぎで3カ月休む生活が心地いい

平日は毎日朝早くから夜遅くまで働き、休みの日は家のことをあれこれとやって、結局休める時間なんて夜(と休みの日の)寝る時間くらい、という生活、サラリーマン時代の自分を見ているようですが、普通に働く人たちの生活なんてどれも似たり寄ったりだと思います。もちろん、そこには「そこそこ」ではない、一般的な社会人が目指している中流的な生活があるのですが、それを維持するためにはどうしたって「9時から5時まで」の仕事をしないといけないわけです。

1か月身を粉にして働き、「そこそこの稼ぎ」を手にして2~3か月は楽して暮らす、というその日暮らし的な生活を少し大きいスパンで行おうとすると、年の3/4くらいで年収のほとんどを稼いで、1~2か月バカンスを楽しむ、というスタイルが考えられます*1。そういう生活、あこがれませんか?もちろん、日本では無理、と思われるでしょうし、実際にサラリーマンでなくとも私のような個人事業主でもいろいろとしがらみがあったりして長期バカンスは難しいだろうな、とは思いますが*2

当たり前のことなんですが、どんな「商売」をしていても、苦労は尽きないわけです。転売ヤーで言えば「今売れている商品」ではなく、「今後爆発的に売れていくであろう商品」を探して、それを店頭在庫がなくならないうちに買い占めてしまう、ということ。「探す」ことは情報収集能力の高さが必要になりますし*3、さらには在庫を持った以上はそれを「売りさばく」必要があり、一気に(短期間で:需要があるうちに)売り上げを上げなければいけないという問題もあるのですが、それをうまくやっている(できている)人たちは商売人としての素質があるんだなぁ、と思います。尊敬はしませんが。

ニッチな仕事を理解される必要はあるのか

今年の後半くらいから外出する機会も増えて、その時によく聞かれるのが、

「そういえばずっと在宅でお仕事をされていましたよねぇ。」

何を意図してこの質問をされるのか、シチュエーションによっても異なるのですが、基本的には「在宅ワーク」「テレワーク」の需要拡大による売上への寄与、というところに話が落ち着きます。短絡的な答えを言えば、在宅業務をずっと行っていたことで今年の売り上げはそこそこ伸びている、のですが、「在宅」だったから「売り上げが伸びた」わけではなく、在宅ワークを長く(6年以上)続けていたからこそ持っているノウハウがあって、それがコロナ禍におけるテレワークの需要にハマる部分があったからこそ営業がかけやすくなり、結果受注につなげることができた、という、意外と長い話になったりします。まもなく毎年恒例の「今年一年の振り返り」記事を書き始める予定ですが、この長い話については振り返りの時にでも。

去年までは、「在宅でフリーランスエンジニアをしています」と言うと、だいたい鼻であしらわれる感じで、なんなら「可哀そうな人」くらいな一瞥をくらわされ、果ては「真面目に働くこと」についての説教まで食らうほど、認知度も低く、大した仕事もしていない遊び人、みたいな扱いを受けていましたが、今年に入ってからとても興味を持っていただけて感謝をしていますが、正直「なんなのその手のひらを返したような態度の豹変は」と思っています。もっとも、そういう方たちとは薄いお付き合いしかしないようにしていますが。

転売ヤーという仕事もそうですが、「一般的な社会人」が歩む「一般的な生活|仕事」とはかけ離れた生活|仕事は、到底「一般的な社会人」には理解しがたいのだと思います。それこそ自分の生活の中で当たり前のように買えるはずのなにかが突然買い占められていて高値で売りさばかれようとしている、という現実は受け入れられないし、毎日会社に通勤し、朝から晩まで働く生活を送っていれば、一歩も家から出ることなく日がな一日パソコンに向かって何かプログラムを書いている仕事がある、という事実も受け入れがたいでしょう。でも、それがそこに厳然として存在する「ニッチな世界」なんです。

認めてほしい、とは思っていません。自分自身、在宅エンジニアの地位向上なんて求めていませんし*4、むしろこういう世界への参入者が少なくあってほしいと思っています。でも実際には、転売ヤーもそうだと思うのですが、「今の時代、少しでも稼げるのはこのやり方だ!」みたいな感じで情報が流布し、中途半端に参入してきて「場を荒らす」輩が増えてきます*5。そういう中途半端な輩が途中で仕事を投げ出したりあたかも暴利をむさぼるかのような挙動をするから先行している「同業者」が割を食らってしまうのではないかと思うのですが。

余談:転売ヤーの味方なの?敵なの?

味方か敵か、という考え方が正しいのかどうかわかりません。要は転売ヤーのことを「クズ」だの「消えろ」だの思っているのか、という話だとすれば、そこまでは思っていないけれど、ある場所にいるときだけは敵になる、と感じています。

私はほかの記事でも結構書いている通り、中古屋、ジャンク屋巡りが趣味ですし、そこで必要なものを買うことがとても多いです。が、ここ数年、中古屋、特にハードオフあたりで目にするのは、売っているモノとスマホを交互に見ている人たちです。いわゆる「せどらー*6」です。猛烈に増えた、というわけでもないですが、最近はいつ行っても誰かしら必ず先客がいて、ずっといろんなものを物色しています。私が欲しいモノが必ずしも彼らのお眼鏡にかなうかどうかはわかりませんが、状況によっては同じものを買おうとするかもしれません。そんなシチュエーションにおいては彼らは敵になりますが、それ以外は別にどうでもいいかな、と思っています。「せどり」自体が儲かる仕事だと私自身は思ってませんしね*7

まとめ:ニッチな世界=それぞれの世界

西日本新聞」という地方紙での紹介ではあるものの、それこそ新聞を毎日読み、日々ルーティンワークを過ごすような人たちにとって、こんなニッチな世界に生きる人たちのことを紹介したルポはそれなりの衝撃ではないのかな、と思ったりします。

ネットでの評判、というか、この記事をリツイートしたTwitterの反応を見ると、通り一遍な「転売ヤーは消えろ」「奴らはクソ」といった書き込みがほとんどでした。別に、この記事を書いた人も彼ら(記事で紹介した人たち)の生活を理解してほしくて書いたわけではないと思いますし、むしろ「働き方の多様化(ダイバーシティ)」という点での面白さを求めて書かれているんではないかな、と邪推してみたりしています。

ニッチな世界にいる人たち、私もそうですが、日陰者は日陰者として、生きていることは知っていてほしいけれど、そっとしておいても欲しいかな、と思うんです。それこそ記事の転売ヤーさんではないですが、私も、

そこそこの生活でいい

と思っています。高望みせず、身の丈に合った生活をしたい。そのために必要なお金が稼げればそれでいいんです。老後のことなんてわかりません。過去に一度、再発可能性が大変高い脳梗塞で倒れたことがある私です。次はいつ倒れるか、そして次こそは重い後遺症が残るかも、といった恐怖と闘いながら、日銭を稼ぐ毎日です。『老後も豊かな暮らしを』なんてうたい文句で副業や貯蓄・投資を推奨する人たちを見ていると、むしろ「お前らのほうがクソじゃ」と毒づきたくもなるのです。

*1:バカンスの本場フランスでは1か月以上の長期休暇を連続して取得できるらしいので、年に一度のバカンスを楽しみに年の残りの期間を働く、というライフスタイルになっているのかな、と思うのですが。

*2:私ならワーケーションというスタイルで結局仕事をするんだろうな、とは思います。もしバカンスらしきことをするなら、ですが。

*3:コロナ禍でのマスク買い占め→転売はまさに情報収集能力や現状分析能力の高さのなせる業だな、と思います。 それに対してゲーム機については、ちょっと情報の深読みが過ぎる感じがします。特にSwitchの転売に関しては、たまたまコロナ禍の巣ごもり需要にSwitchではなくそのコンテンツである「あつ森」がマッチしたことで、付随的にSwitchが売れた、という状況ですし、Switch/あつ森は持っていなくても困らないモノなので、最悪供給が安定してから購入してもいいと思えるはずです。子供がねだってもそのあたりをきちんと(子供のわかるように、ですが)説明できれば子供だって納得してくれるでしょう。PS5に至ってはただ好事家狙いの無意味な逆ダンピングにしか私には映りませんが...。

*4:私は転売ヤーよりウーバーイーツの配達員みたいなギグワーカーのほうがよほどキライなのですが、社員としての雇用を求めないくせに保障だけは社員と同等のものを求めるというご都合主義的な考え方をしている人たちが多く、そのくせマナーも悪くて...、と、とにかくキライ。

*5:ゲーム機話が何度も出て恐縮ですがPS5なんて、転売する人も含めて一人1台しか買えないわけでしょ?だとすれば、PS5を1台買って転売して、というだけで利ザヤはたかだか数万円しか稼げないし、それ以上の利益にはつながらないんですよね。ごく短期的にお金は稼げる可能性があるとはいえ、普通に商売をやっている立場で言えば儲けの少ないブツだなぁ、と思うんですがどうなんでしょうね。

*6:せどり販売を行っている人たち。転売ヤーと似ていますが、話題になっているモノだけではなく、とにかく利ザヤ稼ぎを生業にしているので扱っている品目は多種多様、とにかく中古品が格安で売っているものを仕入れて高く売り抜けるという人たちです。

*7:特に、転売ヤーもそうなんですが、副業でやるような仕事ではないと思っています。ネックになるのは先に挙げている「情報収集」「大量購入」「在庫の一掃」という3点。このどこかができなくなるだけで売り上げがなくなるはずなので、私にはできないかな、と思ってますし、専業化させるにもリスクが大きすぎます。